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東京地方裁判所 昭和25年(ヨ)2173号 決定

申請人 理研発条鋼業株式会社従業員組合

右代表者 執行委員長

被申請人 理研発条鋼業株式会社

一、保証 無保証

二、主  文

被申請人は、申請人組合員を、昭和二十三年三月一日実施した就業規則によつて処理しなければならない。

三、理  由

第一、争のない事実。

一、申請人は、被申請人会社の従業員を以て組織せられた労働組合である。

二、被申請人会社は、昭和二十三年三月一日その従業員に対し就業規則を制定したが、(これを旧就業規則と略称)その第七十九条には「この規則を改正する必要を生じた場合……は、組合と協議によつて行う。」と定めている。

三、しかるに、被申請人会社は、申請人組合との協議を経ることなく、右就業規則を改正して、昭和二十五年四月十五日からこれを実施している。

第二、争点。

申請人は、旧就業規則の右の改正は、前記第七十九条に違反して無効である、と主張し被申請人は、右条項は、被申請人会社の経営権(就業規則制定権)を無期限に束縛するものだから無効である、と主張する。

第三、当裁判所の判断。

(一)  労働法の社会的基礎をなすものは、組織付けられた労働であつて、そこでは、あまたの労働者の労働力が使用者によつて、組織的統一的に支配され管理されている。すなわち、使用者は、経営秩序を組織し、これを維持するため、労働力を集団的、画一的に統制しようとするのであるが、その要請は、

(1)  職務秩序(職制)の確立。

(2)  職場秩序維持のための制度(服務規律とその違反に対する制裁)の設定。

(3)  職場における労働設備(広い意味の労働条件)の管理。

(4)  賃金、労働時間等(狹義の労働条件)の画一的決定。

ということに表現せられるのであつて、これらの事項を規定するために、使用者が、その支配的、組織的権能に基いて制定したものが、就業規則である。ところで、近代法のたてまえからすれば、(4)の労働条件(ただし(2)(3)についても(4)と同様に考えられる部分も存する。)は、対等当事者の合意によつて決定せらるべきものであるから、(1)ないし(3)だけが、所有権の社会的機能として、労働力を支配する権能に基き、使用者の一方的に決定し得る事項であり、(4)の労働条件の画一的決定ということは、事実上の必要に基き、右に述べた近代法の原則にもかかわらず、事実上行われているものにすぎないということができる。しかしながら、労働法は、労働条件の画一的決定という実際上の必要と現実とを無視することができないので、この事実と近代法の原則との調和をはかり、当事者対等の原則ないし私的自治の原理に反しない限度において、就業規則を一の法的規範として承認した。すなわち、その限界は、

(1)  法令及び労働協約に違反しないこと。(労働基準法第九十二条)

(2)  労働契約を労働者の不利益には変更しないこと。(同法第九十三条)

(3)  団体交渉義務に違反しないこと。(労働組合法第七条第二号参照)(労働者の権利を制限した公共企業体労働関係法すら、就業規則を団体交渉の対象としている。同法第八条第二項二号)

という点にある。

右のうち(2)についていえば、労働協約又は就業規則に定める労働条件が労働契約の内容となつた場合には、(労働組合法第十六条、労働基準法第九十三条)就業規則所定の労働条件を労働者の不利益に変更しても、労働契約の内容は、これより変更をうけないと解することができる。又、(3)についていえば、団体交渉義務とは、積極的には、労働条件の決定につき、団体交渉手続を用うべき義務をも意味するとともに消極的には、これらの点に関し、使用者が一方的に決定しない義務をも包含するのであるから、事前の通告及び協議なしに労働条件を決定又は変更することは、団体交渉の拒否であり、従つて、法律上効力を生じないと解すべきである。従つて旧就業規則第七十九条は、労働条件に関する限り、当然のことを規定したものであるということができる。(もつとも労働基準法第九十条は、就業規則の作成又は変更につき、使用者は、労働組合又は従業員の代表の意見を聴くことを要求するにとどめるが、右は、就業規則の周知を図り、又は、その意見により行政的監督の発動を促すという取締的規定にすぎず、就業規則制定の要件を定めたものと解することはできない。従つて、右法条の存在は、右に論断したところを覆えすにたる理由とはならない。)

しかのみならず、右第七十九条は、被申請人会社が、その就業規則を制定、改正する権能を、自己の意思に基いて制限したものであるから、これを目して無効であるということはできない。

(二)  従つて、被申請人会社が、申請人組合の協議を経ずになした本件就業規則の改正は、前記第七十九条に違反して無効である。(本条項のように労働条件に直接関連のある事項を定めたものに違反した法律行為は、その効力を生じないといわなければならない。)

(三)  この点に関し被申請人は、このような条項は、いわゆる経営権を不当に制約するから無効であると主張する。

しかしながら、さきに述べたように使用者が就業規則に定められた労働条件を一方的に決定又は変更しても、既定の労働契約に定められた労働条件を労働者の不利益には変更し得ず、(労働基準法第九十三条)既存の労働条件を変更するためには、被申請人会社は申請人組合と協議しなければならないのであるから、右のごとき条項は、決して被申請人会社のいわゆる経営権を不当に制約するものではなく、従つて、有効であるといわなければならない。

(四)  以上の理由により旧就業規則は現在なお効力を有すると解すべきであるから、法律関係の安定を図るためにも、又、改正後の就業規則を適用されることにより、申請人組合員のこうむるべき損害をさけるためにも、被申請人会社をして、旧就業規則を遵守させる必要があるものと認め主文のとおり決定したしだいである。

(裁判官 柳川真佐夫 古山宏 高島良一)

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